インプラント治療に伴う上顎洞炎とは?原因・症状・治療法を解説

インプラント治療に伴う上顎洞炎とは?原因・症状・治療法を解説

インプラント治療は外科手術を伴う治療ということもあり、リスクについてもおさえておかなければなりません。

インプラント治療をした際に発生する合併症の一つとして知られているのが、「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」です。具体的にどのような合併症なのか、原因や症状、万が一、上顎洞炎を発症してしまった場合にはどういった治療法が最適かについて解説します。

インプラント治療にともなう上顎洞炎とは

インプラント治療に伴う「上顎洞炎」とは、上顎洞粘膜と呼ばれる場所に細菌が入り込んだことによって発生する炎症のことをいいます。

「上顎洞」とは上顎の骨の奥(鼻側)にある副鼻腔の一種で、鼻腔へとつながる粘膜で覆われた空洞部分のことです。何のために存在しているか明確ではない器官ですが、炎症が起きると歯や鼻、頭につらい痛みなどを感じるようになります。

慢性的な副鼻腔炎のことを「蓄膿症」と呼ぶことを考えると、上顎洞炎の症状も想像しやすいのではないでしょうか。

最近はインプラント治療が一般化してきたことにより、歯科治療を原因とする上顎洞炎も多く見られるようになってきていると報告されています。

インプラント治療による上顎洞炎には、インプラントを埋入する際に発症するケースと、インプラントを埋め込むための上顎洞底挙上術実施により発症されるケースの2種類があります[1]。

ただしインプラント治療により上顎洞炎が発症された例では、治療前にCT検査が行われていなかったことがほとんどだとされており[1]、インプラント治療の実績や経験が豊富な歯科医院で治療を受ければ発症するリスクは低いと考えられるでしょう。

また術中・術後の感染症対策が十分に行われている環境で手術を受けることで、発症を抑えられるとも言われています[1]。

上顎洞炎が発症する原因と症状

上顎洞炎が発症する原因と症状
インプラント治療において上顎洞炎を発症する原因はさまざまに考えられますが、代表的なものは次のとおりです。

  • 炎症へとつながるトラブルの発生
  • インプラント治療中の人為的ミス
  • 手術中の細菌感染
  • インプラントの脱落
  • 上顎洞粘膜への穿孔

上顎洞炎の発症には主に上記のような原因が考えられます。その他、耳鼻咽喉科の医師から指摘されているように、CT検査を省いたインプラント治療や、上顎洞底挙上術の実施により発症する可能性もあるでしょう[1]。

しかしいずれにしても上顎洞で炎症が発生していることが原因なので、炎症につながるようなトラブルが関係しています。例えば、上の歯を抜歯した際に上顎洞とつながり、その際に感染したり、放置した虫歯や歯周病の炎症が上顎のまで広がったりして上顎洞炎になってしまうようなケースが多いです。

また、治療中の人為的なミスが原因になるケースもあります。インプラント治療の場合、手術後に細菌感染が起こったためにインプラントの固定部分が緩くなってしまい、インプラントが落ちてしまうことも原因の一つです。

インプラント治療では、インプラントを固定する土台であるあごの骨がしっかりしていなければなりません。あごの骨が不足している場合は、上顎洞粘膜を剥離してから骨を移植するサイナスリフトと呼ばれる方法で対応できるのですが、この治療中に上顎洞粘膜に穴を開けたり、何らかのトラブルが発生したりすると上顎洞炎のリスクが高くなります。

上顎洞炎の症状

上顎洞炎になった場合、以下のような症状が現れます。

  • 歯が痛む
  • 歯茎が痛む
  • 噛むと痛い
  • 鼻がつまる
  • 鼻から黄色い膿が出る
  • 頬に圧迫感を感じる
  • 頭痛
  • 発熱

痛みについては、全く感じないケースもあります。そのため、何となく鼻周りのトラブルを感じてレントゲンを撮影したところ、上顎洞炎であったと判明するようなケースも多いです。

風邪をひいた時も同じような症状が出るので、発見が遅れてしまうことがあります。ですが、インプラント治療をした後にこういった症状が現れた場合、上顎洞炎の可能性も疑ってみましょう。

また、もともと副鼻腔炎の方は、そうでない方に比べてリスクが高くなるので、インプラント治療を行うよりも前に、副鼻腔炎をしっかり治療しておくことが重要です。

上顎洞炎の治療法

上顎洞炎の治療法上顎洞炎になった場合、主な治療法は薬物治療と歯科治療、上顎洞根治手術の3種類です。それぞれについて解説します。

薬物治療

炎症を抑えるための抗菌薬を用いた治療です。抗菌薬は炎症の原因となっている菌を殺す働きがあり、菌の増殖を抑えることができるため炎症を緩和させる効果があります。抗菌薬は決められた期間がしっかりと飲まなければなりません。

薬を飲む期間は、急性の場合7~10日間ほどとなっています。しかし、慢性状態の副鼻腔炎については、3ヶ月間ほどにわたりマクロライド系の抗菌薬を少量ずつ服用しなければならないケースもあります。他、ステロイドや注射薬などを用いた治療も一般的です。

歯科治療

薬物治療は炎症を抑える治療ではありますが、原因を取り除かなければ再発してしまいます。歯が原因で上顎洞炎になっている場合、神経を治療したり、抜歯したりするなどの治療を行い、根本的な原因を解決しましょう。

上顎洞の中にインプラントが入り込んでしまっていることが原因で上顎洞炎になったケースがありますが、こういった場合も異物であるインプラントを取り除かなければなりません。

上顎洞根治手術

薬物治療や歯科治療で解決できない場合、手術が必要です。手術では、犬歯上方を切開して副鼻腔の粘膜を除去するコールドウェル・ルック上顎洞手術という方法があります。

こちらの手術方法はしびれが生じやすいほか、治療成績が高いといえないため、近年は内視鏡を用いた内視鏡下鼻内手術法が行われることが多いです。また、他にもいくつか手術の種類はあるので、状況に合わせて選択されることになります。

手術が選択されるのは、症状が重い場合です。できるだけ早期に異常に気づき、薬物治療や歯科治療で解決できる段階で治療するのが理想的です。

信頼できる歯科クリニックでの治療が重要

信頼できる歯科クリニックでの治療が重要
インプラント治療に伴う上顎洞炎について解説しました。どれだけ確実な手術を行っても細菌感染が防げないようなケースもありますし、100%上顎洞炎を予防するのはなかなか難しい事ではありますが、きちんと感染症対策を取って、確実な形でインプラント治療を行っている歯科クリニックを選択することが重要です。

これまでの実績なども確認しながら歯科クリニック選びをすることが大切ですが、初めてのインプラント治療にあたって、どのように歯科医院選びをすれば良いのかわからないという方もいらっしゃることでしょう。

歯科医院の選び方がわからない方は、ぜひ『【インプラント治療前必読】信頼できる医師と歯科医院の選び方』をご参考ください。

こちらのページではインプラント治療に適した環境を備えている歯科医院の見分け方や探し方、優秀な医師の選び方について解説しています。インプラント治療後のリスクである上顎洞炎を予防するために、ぜひご覧になってみてください。

[1]参照:佐藤公則「(PDF)インプラント治療による歯性上顎洞炎」耳展 54:6;398~405,2011