インプラント治療では金属アレルギーの心配が少ない「チタン」を使っているため、基本的に金属アレルギーの方でも治療を受けられます。チタンは人工関節やペースメーカーにも使用されており、非常に安全性の高い金属です。
しかし、たとえ安全性の高いチタンであっても、金属アレルギーの症状が現れるのではないかと不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでインプラント治療に使われるチタンの特徴や、万が一金属アレルギーが出た場合の症状などについて解説していきますので、金属アレルギーが不安でインプラントを迷っている方はぜひご参考ください。
金属アレルギーでもインプラント治療は可能なのか?
まず、金属アレルギーの方でもインプラント治療は受けられます。インプラントに使用される金属は医療目的で広く使用されており、安全性の高い「チタン」を利用するためです。
しかし、インプラント治療を受けて金属アレルギーの症状が出ないとは言い切れません。
人工歯である「上部構造」にはチタン以外の金属が使用されることも多く、その他の金属によりアレルギー症状が引き起こされる可能性もあることから、金属アレルギーの方は症状が起きにくい金属を選ぶことが重要です。
アレルギーを起こしやすい金属・起こしにくい金属
それでは、金属アレルギーの方がより安全にインプラント治療を受けられるよう、アレルギー症状を引き起こしやすい金属と、引き起こしにくい金属について解説します。
アレルギーを起こしやすい金属
まずは金属アレルギーを引き起こしやすい金属から見ていきましょう。
- ニッケル
- コバルト
- クロム
- 金
- 水銀
金属アレルギーの多くがニッケルと水銀を原因物質として発症しますが、その他にも3種類の金属でアレルギーが起きる可能性があります。ただし金にアレルギー症状が起きる人は少なく、254人の金属アレルギー患者への検査で、症状が見られたのはわずか1.8%であったとのことです。
参照:伊藤正俊「(PDF)微量元素と皮膚疾患-金属アレルギーと金属発癌(砒素と皮膚癌)-」Biomed Res Trace Elements 16(1):1-8,2005
参照:小林道雄「(PDF)金属アレルギーと表面処理」表面技術Vol.45,No9,1994
アレルギーを起こしにくい金属
金属アレルギーを引き起こしにくい金属は、次の2つが代表的です。
- チタン
- 銀
人によりアレルギー反応を起こす金属はそれぞれ違うため一概には言えませんが、チタンと銀は金属アレルギーの症状を引き起こしにくいとされています。
特にチタンは金属アレルギーの方へのインプラントに使用しても問題がなかったと報告されており、安全性の高い金属だと言えるでしょう。
参照:完山学,真野隆充,荒川光,峯篤史,上山吉哉,窪木拓男「(PDF)金属アレルギー患者に対するインプラント治療:チタン製修復物による暴露試験を行った1症例」日口腔インプラント誌第20巻第2号
インプラント治療で使用する金属や材質
インプラントは、製品によって多少違いはありますが、以下の3つの素材によって成り立っています。
フィクスチャー
インプラント体とも呼ばれるもので、歯を支える土台である「歯根」という部分の代わりを果たす部品です。チタンで作られているネジ状の部品で、様々な形とサイズがあります。
あえてフィクスチャーの表面を粗く加工することにより、骨と結合しやすくしている製品もあり、製品によって特徴が異なる部品です。
上部構造
歯茎の上に出る人工歯の部分のことです。金属やレジン、セラミックなどで作られています。各部位は独立しているため、この人工歯である上部構造部分に欠けや割れなどが発生した場合、単独で取り換えることが可能です。
セメントで固定してしまう方法もあるのですが、固定する方法で治療を行った場合は上部構造のみを取り外すことは難しいといえます。
アバットメント
あごの骨に埋め込んだフィクスチャーと、上部構造をつなぐための部品です。フィクスチャーと同じく、チタンで作られており、このアバットメントと上部構造を専用のネジで固定します。
また、人によって歯肉の厚みなどが異なるため、個人によって最適なサイズや形のアバットメントを使用します。
チタンがインプラントに選ばれる理由
インプラントに使われている金属は、チタンです。チタンは人工関節やペースメーカーなどでも使われていて非常に安全性の高い金属であり、その他の金属とは異なり、生体に埋入しても拒絶反応を起こすリスクが非常に低い特徴を持っています。
これは、生体がチタンを異物として認識しないためです。また、チタンは骨と結合する性質を持っていることもあり、あごの骨に埋め込んだ際にしっかりと骨と結合して安定するのも、インプラントの素材としてチタンが選択されている理由の一つだといえます。
金属のアクセサリーなどでアレルギー反応が起こってしまう方は心配かもしれませんが、一口に金属アレルギーといっても様々な種類があり、特に多いのはニッケルアレルギーです。
他にもコバルトやスズ、パラジウム、クロムなどにアレルギー反応を示す方もいます。
これらと比較してチタンは非常に金属アレルギーの心配が少ない素材だと言えるでしょう。
注意点として、確かにチタンは金属アレルギーのリスクが低い素材ではありますが、ごくまれにチタンにアレルギー反応を示す方もいるので、100%リスクのない素材とはいえません。金属アレルギー体質の方は事前に医師に相談しましょう。
上部構造も金属以外を選ぶことができる
インプラントによる金属アレルギーの心配は、上部構造にチタン以外の金属が使われているためです。しかしインプラント治療では、金属以外の上部構造を選ぶこともできます。
たとえば、ジルコニアやオールセラミック、ハイブリッドセラミックなどを選べば、金属ではないためアレルギー症状が引き起こされる不安もありません。
ジルコニアは人工ダイヤモンドとしてアクセサリーにも使用されており、歯科医院の治療でも頻繁に用いられるようになってきた素材です。
またセラミックとは焼成により作られた金属ではない材料のこと。耐摩耗性が高く劣化しにくい上に、身体への適合性が高いことから人工骨にも使用されています。
金属アレルギーの方でも、金属以外の上部構造を選べばアレルギー症状が引き起こされるリスクはかなり軽減されるはずです。金属アレルギーのためインプラント治療に不安を抱えている方は、上部構造の素材選びにこだわることで安全性の高い治療を受けられるようになります。
インプラントによる金属アレルギーの主な症状
インプラント治療を受ける前に、もし治療により金属アレルギーが引き起こされたらどのような症状が現れるのか知っておきましょう。主に現れる可能性のある症状は次の2つです。
扁平苔癬:へんぺいたいせん
インプラント治療で金属アレルギーの症状が現れた場合、口内に炎症が起こる「扁平苔癬」という症状が現れることがあります。扁平苔癬になると口内に白色の炎症性の腫れが現れ、痛みが感じられるようになります。頬の内側や舌、唇、歯茎などに見られるのが一般的です。
手足の発疹やかゆみ
口内だけでなく、手足に発疹やかゆみが現れることも考えられます。
口の中で溶け出した金属アレルギーの原因物質が血液中に入り、全身に行き渡るとインプラント装着部位から離れた場所で発疹がかゆみなどの症状が見られるようになります。主に手足にかゆみが現れることが多いようです。
参照:秋葉陽介,渡邉恵,峯篤史,池戸泉美,二川浩樹「(PDF)歯科金属アレルギーの現状と展望」日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 8:327-339,2016
もしインプラント治療で金属アレルギー症状がでたら
インプラント治療を行ったところ、チタンアレルギーと思われるアレルギー症状が出てしまったといったケースでは、埋め込んだインプラントを除去する必要があります。原因であるチタンを除去しない限り、症状が改善しないケースが多いです。
どの程度の症状が出たら除去が必要になるかは医師によっても判断が異なりますが、気になる症状があれば相談しましょう。それほど症状がひどくない場合は様子見をすることもあります。
インプラント治療開始前にパッチテストを
せっかく高額な治療費を払ってインプラントを導入したのに、あとからチタンアレルギーであることがわかって除去しなければならないとなると治療費が無駄になってしまいます。
これを避けるためには、事前にパッチテストや採血でアレルギー検査を行うと良いでしょう。
なお、歯科医院の中にはチタンアレルギーを検査するための設備が整っていないところもあるため、その場合は別の皮膚科専門クリニックなどで検査を行わなければならないことがあります。
パッチテストなどを行えば事前にしたアレルギーのリスクを判断することができるので、本当にインプラント治療を行っても問題ないか考える際に役立つでしょう。
金属アレルギーのリスクは少ない
何となくインプラント治療は金属アレルギーのリスクが高いのではないかと思ってしまう方がいますが、例えば一般的な歯科治療で使われている銀歯の素材はパラジウム合金であり、インプラントで使われるチタンよりも金属アレルギーリスクが高いです。
そのため、基本的に心配はいりません。気になる方は事前にパッチテストをするなどして対策を取ってみてください。