インプラントと糖尿病の関係性とは?患っていても治療可能?

インプラントと糖尿病の関係性とは?患っていても治療可能?

インプラント治療は外科手術を伴うため、全身疾患を抱えている方の中にはリスクが高いと判断される方もいます。例えば、糖尿病もその一つです。

しかし糖尿病だからといって、必ずしもインプラント治療が受けられないわけではありません。インプラント治療を検討する際におさえておきたいポイントや、注意しなければならないことなどについてご紹介しましょう。

インプラント治療前に確認したい糖尿病による身体への問題

糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンと呼ばれるホルモンの作用が不十分であるため、血糖値が高い「高血糖」の状態が続いてしまう病気です。糖尿病を発症した場合、身体には以下のような影響があります。

細菌に感染しやすくなる

糖尿病になると高血糖になりやすく、これにより白血球や免疫に関する細胞の働きが低下してしまうことがあります。そのため、健康な方であれば感染しないような細菌感染のリスクが高くなることがあるのです。

糖尿病を患っている方の中でも、血糖コントロールがうまくできていない方ほど抵抗力が弱くなり、細菌感染のリスクが上がってしまいます。

糖尿病によりリスクが高くなる細菌感染は様々です。皮膚の感染症や歯周病なども代表的な感染症であり、重度の感染症にも繋がりやすくなります

糖尿病によって免疫力が著しく低下した場合、健康な方であればほとんど心配ないような部位で感染が起こってしまうケースも珍しくありません。

傷の治りが遅くなる

糖尿病になると傷が治りにくくなってしまうことがあります。前述した免疫機能の低下も原因の一つです。また、高血糖の状態は動脈硬化につながりやすくなるのですが、動脈硬化が起こると血管が細くなります。

傷を治すために必要な酸素や栄養素は血流に乗って運ばれてくるため、動脈硬化によって傷が治りにくくなってしまうこともあるのです。

神経に影響が出る

糖尿病の合併症として、神経障害が挙げられます。高血糖の状態が続くと血流が低下してしまい、神経に十分な栄養を送ることができません。また、末梢神経の代謝に問題が起こり、本来不要な物質が蓄積してしまうようなこともあります。

神経障害には様々な種類があり、皮膚感覚の異常や、胃腸運動の異常、心臓や血圧調整機能に関するものなど、実に多くの影響が出てしまう恐れがあるのです。場合によっては神経障害が原因で合併症に気づくのが遅れてしまい、重症化してしまうようなケースもあります。

大きな原因は高血糖にあるので、血糖値の状態が安定していないほどリスクが高いです。神経障害を予防するためにも血糖値を安定させ、高血糖を避けることが欠かせません

糖尿病とインプラント治療の関係性について

糖尿病を患っている方はインプラント治療が難しいといわれる大きな理由は、以下の通りです。

患部の傷口が治りにくい

糖尿病の方は傷の治りが遅くなる可能性があるため、インプラントの外科手術で歯肉を切開した後、なかなか傷が塞がらなくなってしまうトラブルが発生しやすいです。傷口の治りが遅くなればなるほど、細菌感染の可能性も高まってしまいます。

唾液の量が減り、口腔内が不衛生になりやすい

糖尿病になると、そうでない方に比べて唾液の分泌量が減ります。口腔内は唾液によって細菌の繁殖が抑えられているため、唾液量の少ない糖尿病患者の方は、口腔内が不衛生な状態になりがちです。

インプラント手術を成功させたり、埋入したいインプラントを長持ちさせたりするためには、常に口の中を清潔な状態にしておかなければならないので、それが難しい糖尿病の方は治療が難しいと言えます。

歯周病を発症しやすい

糖尿病が進行すると免疫力が低下し、歯周病の悪化に繋がりやすくなることもあります。そして歯周病菌は、インプラントを失う大きな原因であるインプラント周囲炎を招きます。

また、歯周病が悪化することで血糖値のコントロールが難しくなり、高血糖状態になりやすくなるというのも、糖尿病患者にインプラント治療が向いていない大きな理由です。

また、肥満と糖尿病は関わりが強く、肥満になると糖尿病が悪化しやすく、糖尿病になると肥満になりやすいとされています。

糖尿病で肥満体型になってしまうと血糖値上昇を抑えるインスリンというホルモンが効きづらくなり、高血糖に繋がりやすいです。前述したように高血糖は歯周病を悪化させる原因であるため、注意しなければなりません。

インプラント周囲炎は、インプラント治療を受けた方が特に注意しなければならない感染症なので、どのようなものなのか治療前に確認しておくことをおすすめします。

インプラント周囲炎の詳細については『インプラント周囲炎とは?原因と対策について』でご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

食事制限により低血糖になりやすい

血糖値が高くなる高血糖とは逆に、血糖値が低くなり過ぎる「低血糖」と呼ばれる症状があります。低血糖の状態がひどくなると、意識を失ってしまうような可能性さえあるのです。

食事の中で適切な量の糖を摂取できていれば低血糖になることはありません。しかし、インプラント治療後、しばらくの間は食べられるものに制限がかかることがあります

食事から摂取できる糖が減っている状態で、いつも通りに血糖値を下げるための薬を服用したり、インスリン注射をうったりすると低血糖に繋がってしまう可能性があるのです。食べられるものが安定するまでは特に注意が必要です。

糖尿病患者はインプラント治療を受けることができないのか

糖尿病患者はインプラント治療を受けることができないのか
糖尿病だからといって、絶対にインプラント治療を受けられないとは限りません。血糖値のコントロールがしっかりできており、歯周病のリスクも低い方であれば選択できる可能性が高いです。

糖尿病にかかると歯周病の発生リスクが高くなることを十分に理解し、適切な歯磨きやケアを行い、歯周病の発生リスクを抑えましょう。

残念ながら歯周病がかなり進行していたり、血糖値のコントロールができていなかったりするような状態ではインプラント治療を行うのが難しく、断念せざるを得ないケースもあります。無理にインプラント治療を行っても術後の感染症を引き起こす危険性があるためです。

血糖値のコントロールについては、糖尿病の主治医に相談してみましょう。一度インプラント治療が難しいと判断されても、その後の状態が改善されれば検討できる可能性もあります。

糖尿病患者がインプラント治療を受けるための条件

糖尿病患者がインプラント治療を受けるための条件
糖尿病を患っている方がインプラント治療を行いたいと考えた場合、以下3つの条件を満たしている必要があります。

基準となる数値を満たしていること

公益社団法人日本口腔インプラント学会では、インプラント治療に伴う糖尿病のコントロール基準として、インプラント治療ができるのは1~2ヶ月の平均的な血糖の状態を知るのに参考にされる数字である「HbA1c」の値が6.9%以下の人と定めています。

また、食後2時間の血糖値が180[mg/dl]以上の場合は血糖値のコントロール不良であると判断されるため、この場合も難しいです。

参考:日本口腔インプラント学会:インプラント治療における術前診断:臨床検査の重要性

内科の担当医から必要な指示を受けておくこと

糖尿病を患っている方は、歯科医師だけではなく、かかりつけの内科の担当医とも連携して治療について検討していく必要があります。治療前には血糖値のコントロールについて何を行えば良いのか具体的な指示を受けておきましょう。

入念な細菌感染対策を取り入れること

糖尿病患者は傷口が治りにくいことに加え、歯周病を患っている方が多いため、細菌感染のための対策を取り入れることも重要です。正しい口腔ケアに関する知識を身につけておきましょう。

なお、歯科医院では外科手術を行う前に抗生物質を服用してもらうなどして、細菌感染のリスクをできるだけ下げるための工夫をしています。

糖尿病の方は医師と相談のうえ治療の検討を

糖尿病の方は医師と相談のうえ治療の検討を
糖尿病とインプラント治療の関係についてご紹介しました。糖尿病を患っていても、血糖値などの数値が安定していて、しっかりと口腔内のケア、歯周病対策ができている方であれば、問題なく治療を検討できるケースもあります。

一方で糖尿病の状況が良くない方は、ご紹介してきたようなリスクについても心配されるため、自分の場合はインプラント治療が可能か、治療が難しい場合はどのように対策をとれば良いのかについて、医師とよく相談をしてみてはいかがでしょうか。